CAI02では、10月4日から11月9日まで、世界各地での滞在経験から、食文化や信仰など異文化間のはざまや差異に着目した映像作品を制作し国際的に活躍する荒木悠の新作映像展「RUSH HOUR」を開催する。
2018年にロッテルダム国際映画祭でタイガーアワード賞受賞した短編《マウンテン・プレイン・マウンテン》は、北海道帯広のばんえい競馬場を舞台にしており、北海道には何度となく足を運んでいるゆかりのあるアーティストである。
本展では新たに2017年から白老、網走、道東と冬の北海道を幾度も巡り、構想から2年越しの新作映像展となる。釧路の風物を舞台とした火のカムイを想起させる北海道冬のひと時を、是非ご高覧いただきたい。
◎ショートインタビュー
—まず、今回の新作はどういった内容でしょうか?
火をめぐる人間の営みについてです。ヒト属による火の使用は、諸説ありますがホモ・エレクトゥスの100万年前まで遡れるといわれています。それ以来、人類は火を如何にコントロールしてきたか、その長い積み重ねが歴史であり文明そのものとも言えるわけですね。この壮大なテーマを、20分弱の映像で扱おうとしているので、端的に言ってかなり無謀な試みです。
—自覚されてるようでホッとしました。(笑 タイトルについて詳しくお聞かせください。
「RUSH HOUR」はあくまで展覧会名なので作品タイトルとはまた別です。いくつか意味を込めてまして、ひとつは映画用語のラッシュプリント。これは未編集のポジフィルムのことを指し、その確認する作業をラッシュ試写ともいいます。今回展示する映像(デジタルですが)は、初出でもあるので、いろんな反応や感想にも耳を傾けたい。もちろん完成はさせますが、開かれた状態も欲しかったので「試写」くらいの距離感だとこちらもリラックスして良いかなと思いました。そのための時間、という意味でのHOURです。同名のアクションコメディ映画とは直接の関係はありませんが、人種や民族もサブテーマとなっているので無関係であるとは言い難いかもしれません。
—ではいつか「RUSH HOUR 2」もできますね。脚本はいつも用意されてるのですか?
ないに等しいです。未だに書き方がわからないので、選択肢として自分の中に存在しません。あった方が、効率がよくなるんだろうなとは思いますが、いつも何が出来上がるのかわからない状態で進めています。ただし、今回の新作に限っては、本番撮影中に遭遇したある気づきがキッカケとなり、撮りながら頭の中で一気に作品の方向性が決まりました。普段は撮ってからじっくり考えるので、我ながら珍しい体験でした。
—いい意味で行き当たりばったりなんですね…。そして今回参考になった本があるとか?
はい。大塚信一著『火の神話学―ロウソクから核の火まで―』(平凡社、2011年)は非常に面白い本で、制作する上で大きな拠り所となりました。論考の中で、大塚氏は民俗学者の飯島吉晴の言葉を次のように引用しています。『火はそれ自体が光明と燃焼、精神と物質、創造と破壊、結合と分離など両義性を帯びたものであり、このことが新と旧、浄と穢、神と人、異界とこの世など二つの異なった項の間を火が媒介する作用が支えているのである。』(「火による生活の変化」『火―民衆生活の日本史』思文閣出版、1996年)
—矛盾の中から本質を探る荒木さんが火をモチーフに選んだ理由が少しわかったような気がしました。面白いです。
まだうまく説明できないんですが…この数年の間に社会的な出来事によって感情が揺さぶられる頻度が多くなってきている気がするんですね。それももの凄い速度で次々と。加速し続けている状況に少しでも抗いたいと思うようになりました。精神的な揺らぎを、そのまま炎の揺らめきに置き換えてみよう、と。
—最後に一言お願いします。
北の大地が私に作らせてくれた作品を、札幌で発表できることを感慨深く思います。ぜひ、会場へ足をお運びください。