CAI02では新年第一弾としてミヤギフトシ展を開催します。ミヤギは自身の記憶や体験に向き合いながら、国籍や人種、アイデンティティを主題に作品を制作するアーティストです。本展「The Dreams That Have Faded/いなくなってしまった人たちのこと」は、2016年あいちトリエンナーレ”コラムプロジェクト“「交わる水-邂逅する北海道/沖縄」で発表した北海道に纏わる5つの映像インスタレーションを再構成したものです。さらに写真作品なども加わりCAI02の2つの展示室を使って展開します。北海道では、初の発表となるミヤギフトシ個展を是非、ご高覧ください。
『The Dreams that Have Faded/いなくなってしまった人たちのこと』は、五つの場所を舞台に、会話を通して物語が紡がれていく。異なる土地の海の映像とその潮騒の音色に耳を傾けながら、画面に映し出される字幕を追いかける。それぞれから流れる音は、いつしか協奏曲のようにまとまりを帯びて聴こえてくる。
2016年の春、北海道を訪れたミヤギはその土地を紐解く手掛かりとして津島佑子の『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』を携えていた。ジャッカ・ドフニはウィルタ語で「大切なものをおさめる家」という意を持ち、その名称の資料館がかつて北海道の網走に在った。
小説は、語り手の「わたし」がジャッカ・ドフニを訪れた北海道旅行を思い出す記憶と17世紀前半キリシタン迫害が強まる時代に生きたアイヌのルーツを持つ少女「チカップ」の物語が時空を超えて交差する。チカップを取り巻く人びともまた多様なルーツを持ち、差別や暴力の対象とされる。歴史の波にのみ込まれ消えていった声なき声を想像し、繰り返される過ちを見過ごしてはいけない。それらは現代にも続く問題でもあるのだから。
この作品がはじめて発表されたとき、聴こえてくるのはモニターから流れる音だけだった。
あらたに加わった聖歌隊がもたらすコーラスが、春の吹雪のなか海の上を飛び交う渡り鳥の鳴き声に代わり空間に響く歌となり、ふたたび物語へと誘(いざなう)う。
町田恵美(フリーランスエヂュケーター/あいちトリエンナーレ2016「交わる水」キュレーター)